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現在の変化を捉え、将来の可能性を考える手法SCAN 2
2014年10月11日
今回もStrategic Business Insight (SBI)日本代表の高内氏のSCANに関する記事の続きです。
「変化の予兆レポート:Signals of Change」を通じて伝えたいこと
レポートで語られている変化をしっかりと疑似体験していただくため、ここでちょっとタイムマシンに乗り、時計の針を2003年に戻してみましょう。
9.11から2年目に当たる2003年は、米軍によるイラク侵攻が起きた年でした。小泉政権は郵政公社の立ち上げにこぎつけ、日本でも新自由主義を唱える人たちの声が最高潮に達していました。
街にはSMAPの「世界で一つだけの花」やハナワの「佐賀県」が流れ、久々のヒット(最高視聴率37.6%)を記録したドラマ「Good Luck」が放映されました。(ちなみに、以降この視聴率を超えたドラマは「家政婦のミタ」と「半沢直樹」しかありません)
デジタルMova発売から10年、2001年から東京を中心にサービスを開始したFOMAは、この年までにサービスエリアを拡大し、次の年にDoCoMoの900iシリーズが登場し本格的な3G時代に突入していきます。
どうでしょう、2003年がどんな時代だったか思い出していただけましたか? これからご紹介する「モブロギング」というレポートは、ざっとこんな時代に書かれました。
さて、このレポートでは次のような書き出しで始まります。
「Blog(ブログ、Web logsの省略形)とは、作成者が情報を書き込みながら、リアルタイムでインターネット上に公開することができる雑誌記事などのオンラインログ(オンライン記録)である。このブログとは異なり、携帯電話などモバイルからWeb上のサイトにアクセスしたり、情報をアップすることをMoblog(モブログ)と呼ぶ。ブログの書き込みは熟考した長い文章になることもあるが、携帯電話で送受信するモブログは簡潔明瞭でなければならない。」
今読むと、ブログの定義までする必要があったことに驚かされます。お客様とお話していていつも感じることなのですが、通念と言うのは恐ろしく強力なもので、将来の変化に対する感度だけでなく、過去の変化に関する記憶さえも曖昧にしてしまうものらしいのです。それゆえに過去の変化によって生じた常識は、その変化が現実に起きた時点より随分と前から当たり前のものだったと錯覚してしまいます。しかし、そのあと社会に起きた様々な出来事を少しだけ丁寧に振り返ってみると、その印象は随分違ったものになります。
実はザッカーバーグらがハーバード大の学生向けにFacebookのサービスを開始したのは意外と遅く2004年でした。初代iPhoneによってスマホ時代の幕が開くのが2007年ですから、それまでのFacebookはPCからの利用が中心だったことになります。そのFacebookが現地対応を促進し日本を含むアメリカ国外で急拡大するのが2008年でした。そう考えると、それらすべてが揃う5年も前に使いにくいガラ携やブラックベリーなどで新しい行動を起こし始めていたMoblogerは、相当に先進的な人たちだったのです。
この後レポートは、様々な記事やコラムに現れてきた他の傾向についても触れ、起きている変化が社会に対して具体的にどのような影響を及ぼすかについても論じていきます。
まずはジャーナリズムへの影響について「モブログが広く普及すれば、何らかの事件が起きたとき、(ジャーナリストに限らず)誰もがすぐに写真や意見をリアルタイムでインターネット上に公開できる」と発言する意見を取り上げ、事件や事故の取材の在り方が大きく変わる可能性を述べています。また後半では「おそらく最も重要なことは、モブログが個人を対象にしたものであり、個人と社会集団とのコミュニケーションを促進する手段になるということだ。」という見解にも触れ、当時すでに先進的技術に通じたオピニオンリーダーとして知られていた伊藤譲一氏(現MITメディアラボ所長)が、「通常のブログよりもモブログの方がより個人的な内容となっていること」を指摘した、以下のような観察を紹介しています。
「たとえば、ランチを食べている、友人とおしゃべりをしている、異国のリゾート地に来ている、といった具合だ。このような個人情報はニュースではないが、当事者の家族や友人にとっては意味のある情報となる。」こうした話は、モバイル技術が普及した未来で、コミュニケーションの自由を獲得した生活者が、「何のためにその道具を使いたがるか」を強く予見させます。FacebookもMIXIもない時代に、この伊藤氏の見解だけでなく、自分たちが観測した他の様々な兆候を示す社会の変化を引き合いに出し、クライアントとともに未来の生活者の行動変化の可能性について飽かず話していたのを思い出します。
このように私たちは、新しく見られるようになった行動や先験的な人々の言動の中に変化の萌芽を見つけ、それを社会に見え始めた「変化の予兆」として表現し、プログラムのサービスを通じてクライアントと共有することを仕事にしています。