政府はお金で人の行動を変えられるのか――世界の意外なインセンティブ政策 The Surprising Ways Governments Use Money to Change Behavior
今回のエピソードでは、増税やペナルティという「北風」ではなく、金銭的なインセンティブという「太陽」のアプローチで人々の行動を促す、世界のユニークな政策をご紹介します。
今回のポッドキャストです。お聴き下さい。
日本語訳
あなたの国の政府は、リサイクルをしたり、電動自転車に乗ったり、森林を守ったり、さらには引っ越したりすることで、お金を出してくれるでしょうか。世界では、政府が人々に望ましい行動を促すため、金銭的なインセンティブを活用しています。命令するのではなく、「そうした方が経済的に得になる」仕組みをつくることで、人々の行動を変えようとしているのです。
たとえばシンガポールでは、2026年4月から「飲料容器返却制度」が始まり、対象となるプラスチック製や金属製の飲料容器に10セントのデポジット、つまり預かり金が上乗せされています。所定のデポジット表示が付いた空の容器を指定された回収機に返却すると、その10セントが戻ってきます。仕組みは単純です。ボトルを捨てることが、まるでお金を捨てるように感じられるようにするのです。
米コロラド州デンバーでは、別の方法で人々に電動自転車の利用を促しています。2026年には、条件を満たす住民が通常の電動自転車を購入する際、675ドルの還付を受けることができます。利用者の事情に合わせて設計された一部の電動自転車については、さらに高額な還付も用意されています。狙いは、自動車での移動を、より環境負荷の少ない交通手段に置き換えることです。デンバー市によると、2025年には電動自転車の還付制度を利用した人々によって、自動車での移動約83万マイル分が電動自転車での移動に置き換えられました。
コスタリカでは、この考え方をさらに別の方向へ発展させています。土地所有者に、環境資源を守ることへの対価を支払っているのです。「環境サービスへの支払い制度」のもと、森林の保護、植林、持続可能な森林管理などを行う土地所有者は、金銭的な支援を受けることができます。これは、森林による炭素の貯留、生物多様性の維持、水資源の保護といった、通常は市場で価格が付けられにくい価値を評価する仕組みです。
スイスでも、市場では通常十分な対価が支払われにくい役割に対して、農家に公的資金が支給されています。同国の農業直接支払制度には、生物多様性を守るための支払いが含まれており、農地の中に野生生物を支える場所や生息環境を維持することなどが対象となります。つまり農家は、食料を生産するだけでなく、生物多様性を支える役割を果たすことでも公的な支援を受けられるのです。
金銭的なインセンティブは、住む場所を変えることにも利用されています。米国、イタリア、アイルランド、オーストラリアなどでは、政府、地方自治体、官民連携のプログラムなどが、地方や農村部、遠隔地域への移住や就労を促すため、移住補助金、住宅支援、税制上の優遇措置などを導入してきました。たとえば米ウェストバージニア州では、「Ascend WV」というプログラムが、条件を満たすリモートワーカーに対し、移住することで1万2,000ドルを提供しています。この制度は、金銭的なインセンティブによって新しい住民を呼び込み、将来的には新たな経済活動につなげようという試みだといえます。
空の飲料容器から森林、さらには地域社会そのものまで、さまざまな公的プログラムが、「増やしたい行動」に金銭的な価値を与えています。政府や自治体は、規則や税金、罰則だけに頼るのではなく、よりシンプルな手段――つまり「インセンティブ」も活用して、人々の行動を変えようとしているのです。
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